こんな方におすすめ
- 英語と中国語を同時に学んでいる人
- 両言語の違いを整理して理解したい人
- 学校文法に縛られず、語感で理解したい人
英語と中国語。
どちらも日本人にとって比較的なじみのある言語ですが、「文法的に似ている」と言われることが多いのをご存じでしょうか。
どちらも語順は「主語+動詞+目的語(SVO)」で、名詞や動詞が激しく変化しないため、ヨーロッパの言語よりもシンプルに感じる人も多いはずです。
しかし、実際に両方を学ぶとわかるのは、“似ているようでまったく違う” という事実です。
英語は「時制」という時間の流れの中で文を構築する言語。
一方、中国語は「アスペクト(動作の状態)」や「語順」によって意味を表現する言語です。
つまり、英語が「変化する言語」なら、中国語は「並べて見せる言語」。
この構造の違いを理解することで、学習効率が大きく上がります。
本記事では、英語と中国語の文法を比較しながら、初学者が特につまずきやすい5つのポイントを徹底的に掘り下げていきます。
目次
🧩 第1章:時制とアスペクトの違い|動詞が変わる vs 文が変わる
英語の文法の中心にあるのは「時制(Tense)」です。
たとえば「go」という動詞は、時制によって以下のように姿を変えます。
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現在:go
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三単現:goes
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過去:went
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完了形:has gone
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進行形:is going
このように、英語では動詞そのものが「時間の経過」を背負っている のです。
英語の学習者が苦手とする「時制の一致」「完了形」「進行形」も、この構造の上に成り立っています。
つまり、英語話者にとって「いつ起こったか」は文の中核です。
一方、中国語では動詞がほとんど変化しません。
「去」(行く)は、過去でも未来でも同じ「去」です。
その代わりに、文全体の中で**「動作の状態」や「時間の手がかり」** を加えて意味を変化させます。
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我去了北京。(私は北京に行った)
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我去过北京。(私は北京に行ったことがある)
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我正在去北京。(私は今、北京に行く途中だ)
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我明天去北京。(私は明日北京に行く)
どれも「去」という動詞自体は変化していませんが、助詞や副詞が時間を示しています。
これが「アスペクト」の世界です。
英語が「時間軸で文を整理する言語」であるのに対し、
中国語は「動作の状態を中心に文を作る言語」。
この違いを理解しないまま学習すると、英語の思考をそのまま中国語に当てはめて「過去形がないから不安」「未来形がないからあいまい」と感じてしまいます。
しかし実際には、中国語のほうが“動作の途中・経験・完了”といった時間の質を細かく描ける柔軟な言語なのです。
🧱 第2章:単複の概念|英語は変化、中文は量詞で管理
英語では名詞の単数・複数を明確に区別します。
たとえば次のように、語尾の「s」や冠詞で数を示します。
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one apple / two apples
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a book / three books
この単複の一致は動詞にも影響します。
He plays tennis. / They play tennis.
のように、主語の数によって動詞の形が変わります。
つまり英語は「数の一致(concord)」を厳密に管理する言語です。
対して中国語では、名詞の形は単数も複数も変化しません。
“苹果”は1つでも10個でも“苹果”です。
その代わりに、中国語には「量詞」という非常に独特な仕組みがあります。
たとえば:
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一个苹果(一つのりんご)
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三条鱼(三匹の魚)
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五件衣服(五着の服)
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两张票(二枚のチケット)
このように、数と名詞の間に「量詞」を入れる必要があります。
英語では “three apples” とそのまま言えますが、中国語では “三苹果” とは言えず、“三个苹果” のように必ず量詞が入ります。
量詞は中国語の文化的感性と密接につながっています。
“条”は細長いもの、“张”は平たいもの、“根”は棒状のもの。
つまり、数を数えるときに「形や性質」を意識しているのです。
この感覚は、日本語の「本」「枚」「匹」と似ていますが、中国語では文法的に必須です。
そのため、「量詞を使いこなせる=中国語を使いこなせる」に等しいほど重要。
一方で、英語は形ではなく「数」や「可算・不可算」の概念を重視します。
この対照はまさに、英語=数の言語、中国語=形の言語 と言えるでしょう。
🧠 第3章:冠詞の有無が生む“情報の出し方”の違い
英語の冠詞(a / an / the)は、非ネイティブにとって最も厄介な文法のひとつです。
単に「aは1つ、theは特定」と覚えても、すぐに壁にぶつかります。
たとえば:
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I bought a book.(ある1冊の本を買った)
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The book is interesting.(その本は面白い)
ここで重要なのは、「話し手と聞き手が同じ本を知っているかどうか」。
つまり冠詞は“情報の共有度”を表す道具なのです。
ところが中国語には冠詞がありません。
その代わりに、指示語(这=この、那=あの) を使って情報を明確にします。
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我买了一本书。(本を1冊買った)
-
那本书很好看。(その本はとても面白い)
英語のように「共有度」で選ぶのではなく、
視点から見た“位置関係”で区別するのが中国語の発想です。
この違いは、話し方にも大きく影響します。
英語は“客観的な情報整理”を好み、
中国語は“相手との距離感や文脈”を重視する。
言い換えれば、英語は論理的、中国語は状況的。
冠詞があるかどうかで、コミュニケーションの思考構造がここまで変わるのです。
🧭 第4章:語順の厳しさと柔軟性の違い
英語は語順がある程度柔軟です。
「I saw a movie yesterday.」「Yesterday, I saw a movie.」
どちらでも意味は同じ。位置を動かしても成立します。
しかし中国語では語順が非常に厳格です。
たとえば:
❌ 我在昨天北京看电影。
⭕ 我昨天在北京看电影。
中国語の語順は「時間→場所→主語→動詞→目的語」が原則。
少しでも順序が乱れると、意味が崩壊するか不自然になります。
なぜここまで語順が大事なのか。
それは中国語が「文法変化をほとんど持たない代わりに、語順で文法関係を表す」言語だからです。
英語は前置詞や語尾変化が助けてくれますが、中国語は語順しか頼れません。
つまり中国語では、語順そのものが“文法の骨格”。
一方、英語は“文法と語順の分業制”。
英語話者が中国語を学ぶと「順番が窮屈」と感じ、
中国語話者が英語を学ぶと「冠詞や変化が多すぎる」と感じるのは、
この構造的発想の違いが原因です。
💬 第5章:形容詞の扱い|英語はbe動詞、中国語は直接述語
英語では形容詞を使うとき、必ずbe動詞が必要です。
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She is tired.
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The coffee is hot.
be動詞は、主語と状態を結ぶ“橋”のような存在です。
英語では「主語+be動詞+形容詞」が一つのパッケージ。
動詞が抜けると文として成立しません。
しかし中国語では、形容詞がそのまま動詞のように働きます。
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她累了。(彼女は疲れた)
-
咖啡热。(コーヒーが熱い)
be動詞を挟む必要がないため、非常にコンパクトです。
また、「很(とても)」を入れて柔らかく言うのが自然です。
“她很累”は「彼女はとても疲れている」となりますが、
“她累”だと「もう限界で倒れそう」くらい強いニュアンスになります。
つまり、中国語では「形容詞=状態動詞」。
“静的な動作”を表す働きを持ち、感情や体調を伝えるときに非常に便利です。
この違いを理解すると、英語と中国語がいかに「動作」と「状態」を別の切り口で見ているかがよく分かります。
英語は「動作と言葉をつなぐ構造」、中国語は「状態そのものを述べる構造」なのです。
🌏 まとめ
英語と中国語は、ともにシンプルな構造を持ちながら、
その背後にある思考のフレームはまったく異なります。
| 比較項目 | 英語 | 中国語 |
|---|---|---|
| 時制 | 動詞が変化 | 助詞や語順で表現 |
| 単複 | 名詞と動詞が一致 | 量詞が中心 |
| 冠詞 | a / the が重要 | 指示語で代用 |
| 語順 | 比較的自由 | 極めて厳格 |
| 形容詞 | be動詞が必要 | そのまま述語 |
英語は「動詞の変化」で世界を整理する言語。
中国語は「語順と文脈」で世界を描写する言語。
両方を学ぶと、文法を超えて「人間の考え方の多様性」に気づくことができます。