こんな方におすすめ
- 中国人観光客の減少で影響が出る業種の人
- 東アジアの政治や国際関係に興味がある人
- 「中国との関係はどうなるの?」と疑問を持つ人
最近「日中関係の悪化」がニュースやワイドショーで取り上げられています。しかし、僕が20年以上中国語を学び、中国と関わってきた体感としては、今回の“冷え込み”は、昔のそれとはまったく性質が違うと感じています。
2000年代初頭、僕が大学で中国語を学び始めた頃。
その時代の“反日ムード”は、今とは比べ物にならないくらい根強く、インターネットもまだ弱かったため、情報の偏りが普通にありました。
しかし──
2020年代の中国人は、当時とは別の生き物です。
反日教育の影響も薄れ、経済成長によって心に余裕が生まれ、個人主義が広がり、国民レベルの関係はむしろ柔らかくなっていると感じます。
「政府同士」と「国民同士」は、完全に別物。
今回はそのことを、僕の経験も交えて伝えていきます。
目次
20年前の“反日”と、今の中国はまったく別物である
僕が中国語を学び始めた2002年頃の空気を思い返すと、当時の“反日感情”は現在とは比較にならないほど強烈だったと思います。インターネットが未発達で、国際ニュースはテレビと新聞が中心。「反日教育」という単語が頻繁に語られ、世代によっては日本に対して敵対心を持つことが“当然”という空気すら存在していました。
大学以外で受けていた中国語レッスンでも、日中関係や歴史の話題になると講師の表情が固くなり、“触れてはいけないテーマ”が暗黙に存在していました。こちらが空気を読む必要があり、政治の話題に触れると会話が急に冷たくなる。このような経験は、一度や二度ではありません。
当時よく聞いた言葉が「小日本(シャオリーベン)」。
“日本は中国より小さな国”という字義通りの意味だけでなく、中国の下位にある存在というニュアンスを含んだ言葉でした。特に50〜60代以上の世代には、日本を格下とみなす感覚が強かった。
しかし2020年代の中国は、同じ国とは思えないほど変わっています。
経済発展、都市化、教育水準の向上、情報インフラの普及…。これらが複合的に作用し、国民の感情そのものが劇的に変化しました。
・国として豊かになり心の余裕ができた
・海外経験者が増え“日本の実像”を知る人が激増
・スマホ時代で情報源が多様化し、政府のプロパガンダだけが真実ではなくなった
・日本へのコンプレックスがなくなり、むしろ中国の方が強いという自信を持つ人が増えた
つまり、中国の国民感情は、過去の“反日ムード”とは別次元の成熟段階に入っていると言えます。
今の20代・30代の中国人の大半は日本に対して中立〜好意的で、文化・食・観光に興味があり、政治を個人感情に持ち込む人はほとんどいません。これほど環境が変わったのに、昔のイメージで中国を語る日本のメディアは、現実とのズレが非常に大きいのです。
“政府間の対立”があっても、国民同士の感情は揺れない時代になった
かつての日中関係は、政府と国民が強くつながっていました。
政府が強硬姿勢を取れば、そのまま国民も反日ムードへ傾いていく。2000年代の重慶や成都で起きた反日デモは、その象徴でもあります。当時は、政府が外交カードとして反日感情を利用し、国民もそれに呼応していました。
しかし、ここ10年でこの構造は完全に変わりました。
現代の中国人は、政府と自分の生活を切り分ける能力を持っています。
中国社会は急速に個人主義化し、都市部では“政府=生活の邪魔をしない存在”という感覚さえ一般的になりつつあります。
たとえば、
政治的ニュースが流れても、WeChatやWeiboのリアクションはこんな感じです。
・「ふーん。で、旅行いつ行ける?」
・「政治は難しいけど、日本の景色は好きだよ」
・「子どもの教育費で忙しいからそんなの気にしてない」
驚くほど冷静です。
中国の若者にとって、日本は
・アニメの国
・観光が楽しい国
・料理がおいしい国
・文化的に魅力がある国
というイメージが圧倒的に強く、政治が割り込む余地はほとんどありません。
さらに、SNSの普及によって国民同士の交流が増え、互いの“リアルな暮らし”が見えるようになったことも大きい。
国家のメッセージより、フォロワーの口コミのほうが信頼される時代です。
結果として、
国家間が険悪でも、国民感情は全く揺れない現象
が起きています。
日中関係のニュースに日本人が不安を感じても、実際の中国では驚くほど静かなのです。
日本が担うべきは「米中のバランサー」という役割
大学時代、僕は「東アジア共同体」について研究していました。
当時は、中国も日本も“アジアでの連携”を模索しており、アメリカに過度に依存しない地域協力の可能性が議論されていました。
しかし現実は、予想をはるかに超えるスピードで中国が巨大化し、軍事的にも経済的にも“アメリカの真のライバル”になってしまった。この結果、日中連携の可能性は消え、米中対立の構図が強まりました。
では日本はどうするべきか?
僕は、
日本は「どちらかに完全に寄る」のではなく、米中間のバランサーとして立つべきだ
という考えです。
・アメリカに追随しすぎれば、アジアで孤立
・中国へ寄りすぎれば、民主主義陣営からの不信を招く
・どちらかを敵視すれば、日本経済が壊れる
だからこそ、
“距離を一定に保ち、関係を安定させる”という外交姿勢こそ日本の強みです。
実際、アジア圏では日本のこの「中立的で安定した立ち位置」は高く評価されています。
日本はアメリカとも中国とも一定のパイプを持ち、経済・文化・技術の各分野で橋渡しができる。
日本は平和国家として、第三者的な立場で地域のバランスを保つことができる。
これは他国には真似できない役割です。
インバウンドも輸入も“リスク分散”で対応すれば恐れる必要はない
政治的な緊張が高まれば、観光や貿易も影響を受ける──これは当然です。
しかし、それを“危機”として受け取る必要はありません。
なぜなら、
時代に合わせてアプローチを変えれば、ビジネスは継続できるからです。
近年、訪日中国人の数が一時的に減っても、代わりに
・タイ
・ベトナム
・フィリピン
・インド
など、他国からの旅行者が増えています。
国際市場というのは常に波があり、ひとつの国に依存すること自体がリスクです。
同じことは輸入ビジネスにも当てはまります。
長年「Made in China」が圧倒的でしたが、すでに
・ベトナム
・インドネシア
・バングラデシュ
・インド
が存在感を増しています。
つまり、
**今の政治情勢はネガティブではなく“選択肢を広げるチャンス”**でもある。
さらに、日中の一般市民同士の関係はこれまで以上に良好で、
「政治は政治、旅行は旅行」
「国同士は競争してても、人同士はフレンドリー」
という空気が完全に根付いています。
だからこそ、
人間レベルの日中関係の安定度は、ここ20年で最高に近い
とすら言えます。
まとめ
日中関係はニュースでは「悪化」が強調されがちですが、実際には 国民同士の関係は過去20年で最も安定 しています。かつて根強かった反日感情は、経済成長・情報の多様化・世代交代によって大きく薄れ、中国の若い世代は政治と個人の感情を切り離すようになりました。
現在の“冷え込み”は、あくまで 政府間の外交カードの応酬 であり、一般市民の日常や交流の質に目立つ影響はありません。
さらに言えば、インバウンド・輸入ビジネスなどは、国際情勢に応じて リスク分散することで柔軟に対応可能 です。中国が減れば他国が増え、中国輸入が揺れれば他国の生産国が台頭する。むしろチャンスの領域が広がっています。
結論として、
「日中関係=不安材料」と捉える必要はない。
僕たち一般市民にとって重要なのは、政治的な温度差ではなく、これまで築かれてきた 人と人との信頼関係 です。そしてその土台は、過去よりもはるかに強く、成熟した状態にあります。