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仲代達矢氏死去 僕が中国語に興味を持った1つの理由とは?

内山剛@外国語楽習30年

2006年 東京外国語大学中国語学科卒
山口県ゆめ回廊通訳案内士(中国語、英語)
HSK6級195点(2021年)TOEIC825点 (2022年)

現在は韓国語、ベトナム語を独学で学習する独男。

詳しい経歴に関しては定期的に記事を書いていますのでよかったらご覧ください。

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こんな方におすすめ

  • 仲代達矢・上川隆也の演技に心を動かされた人
  • 日中関係や戦後史に興味のある人
  • 山崎豊子の作品を通して「人間とは何か」を考えたい人

昨日、ヤフーニュースで俳優・仲代達矢さんが92歳でお亡くなりになったという報道を見ました。
「大往生」という言葉がこれほど似合う俳優も珍しいのではないでしょうか。戦後の日本映画界を支え、時代そのものを映し出してきた名優の一人でした。私自身もこれまで多くのドラマや映画に触れてきましたが、その中でも仲代さんが出演されたNHKドラマ『大地の子』は、今でも心の奥に強く残っています。

当時は子どもだった私には、その重たいテーマの全てを理解できていたわけではありません。しかし、大人になってから改めて見返すと、そこには“日本と中国”“戦争と家族”“赦しと記憶”という、単なるフィクションを超えた人間の本質が描かれていました。
今回は、仲代達矢さんの訃報をきっかけに、この作品に込められたメッセージと、私自身の人生にどのように影響を与えたのかを、改めて振り返りたいと思います。


『大地の子』が描いた戦後の現実 ― 二人の父を持つ男の物語

『大地の子』は、作家・山崎豊子さんによる原作小説をもとに、1995年に放送されたNHKの大型ドラマです。
上川隆也さん演じる主人公・陸一心(りくいっしん)は、戦争の混乱の中で中国に取り残された日本人の孤児。中国人夫婦に育てられ、自分を中国人だと信じて生きてきた青年です。彼は戦後の激動期を生き抜き、中国社会の中で努力を重ね、ついには優秀な技術者として成功します。
しかし、彼には出生の秘密がありました。実の父(仲代達矢さん)が日本で生きており、息子を探し続けていたのです。

この「二人の父を持つ男」という構図は、単なる親子の再会物語ではありません。
国家と個人、民族と血の絆、そして“アイデンティティ”という人間の根源的なテーマが交錯しています。
中国で育った陸一心にとって、自分はすでに中国人。言葉も文化も価値観も中国の中で形成されてきた。しかし血筋だけを見れば日本人。祖国とは何か、親とは何か、そして自分は何者なのか――この問いを彼は生涯背負い続けることになります。

私は当時まだ小学生で、このドラマをリアルタイムで見ていた記憶は薄いものの、大人になってから再放送で見返したときの衝撃は忘れられません。
上川隆也さんの涙と仲代達矢さんの“静かな叫び”が画面越しに伝わり、まるで自分の心を突き刺すような感覚を覚えました。戦争という大きな歴史の中に埋もれた「一人の人間の運命」。それを真っ向から描いた『大地の子』は、今見ても決して古びない、人間の普遍的な物語だと思います。


個人的な記憶と重なる“鉄と故郷”の記憶

私が『大地の子』を特別に感じたもう一つの理由は、作品に登場する「鉄鋼業」という要素が、私自身の家族の記憶と深く重なっていたからです。
祖父は山口県光市の新日本製鐵(現・日本製鉄)で働いていました。ドラマの中でも、中国の製鉄工場や日本の再建の象徴として「鉄」が重要なモチーフとして描かれています。焼け野原になった戦後の日本が、再び立ち上がるために必要だったのは“鉄の再生”でした。そして、その裏には名もなき労働者たちの努力があった――まさに祖父の世代そのものです。

祖母はよく「おじいちゃんは鉄で日本を支えた」と話していました。その言葉の意味を、子どもの頃はよく分かっていませんでしたが、大人になり『大地の子』を見返したときに初めて理解しました。
鉄という素材は、冷たくて無機質に見えますが、そこには「再生」「復興」「命の連鎖」という温かい意味が込められていたのです。

私は今、全く別の業界で働き、中国語を話し、中国とのビジネスを続けています。
それでもこの作品を思い出すと、自分の中で「日本」「中国」「家族」「働くこと」というテーマが一本の線でつながっているように感じます。
もしかすると、祖母がこのドラマを興味深く見ていたこと、そして私がその影響を受けて中国語や異文化への関心を持ったこと――すべてが一つの“ご縁”だったのかもしれません。


時代を越えるメッセージ ― 日中関係への祈りと希望

『大地の子』が放送された1990年代は、冷戦が終わり、アジア全体が少しずつ安定を取り戻し始めた時期でした。
日本と中国の間でも、政治的には難しい局面もありながらも、「民間レベルの交流」が前向きに進み、文化の架け橋となる作品が次々と生まれました。『大地の子』はその象徴的な存在だったと思います。

戦争という悲劇を描きながらも、この作品の根底にあるのは「赦し」と「共生」です。
敵味方という構図を超えて、人間同士が理解し合おうとする姿勢――そこにこそ希望がありました。仲代達矢さんが演じた“父親”は、息子を奪われ、人生のほとんどを悔恨の中で過ごした人物。それでも最期に「生きていてくれただけでいい」と呟く。その一言には、戦後を生き抜いた世代すべての思いが凝縮されていたように感じます。

今の時代、国と国の対立や分断が再び強まる中で、このドラマが伝えたメッセージは一層重みを増しています。
「誰が悪いのか」ではなく、「どうすれば次の世代が争わずに生きられるのか」。
仲代さんの演技は、その問いを静かに投げかけ続けていました。
私は彼の訃報を知った瞬間、まるで時代のひとつの幕が下りたように感じました。
そして同時に、あのドラマのラストシーンのように、どこか遠くから「もう争わなくていい」という声が聞こえた気がしたのです。


まとめ

仲代達矢さんの訃報は、日本の演劇界にとって大きな損失です。
しかし彼が遺した作品群、そして『大地の子』で見せた魂の演技は、今も多くの人の心に生きています。
あの時代を知らない若い世代にも、ぜひこの作品を見てほしいと思います。
戦争をテーマにしながらも、そこにあるのは「人間の尊厳」と「親子の愛」、そして「国境を越えた希望」です。

改めて仲代達矢さんのご冥福をお祈りするとともに、彼の残したメッセージを、次の時代に語り継いでいくことが私たちの役割だと感じています。

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